「これは俺だ。そしてこれが俺の○○だ。」 14 閏 土
そりゃあ、俺だって人間ですから、いわゆる近親相姦なんてのが御法度であることくらい承知ですよ。
でも、俺だって人間ですから、理性と言う足枷を外したいことだってありますよ。
例えばホラ、こんな寒い冬の早朝とか、例えばホラ、なかなかベットから起き上がろうとしない爆とか。
「爆、そろそろ起きたらどうだ?子供なんだから、ラジオ体操の一つや二つ軽いだろ」
「……ジジくさいぞ炎」
例えばホラ、親切にもこうして起こしに来た俺を邪険に扱う態度とか。
「俺は早起きも出来ない奴にGCウォッチを渡した覚えはないが」
例えばホラ、こんな子供じみた挑発にあっさり乗ってベットから跳ね起きる単純さとか。
爆は、俺の実姉の実子、つまり実甥にあたる。すなわち俺が爆にどうこうするのもいわゆる近親相姦ってヤツで、それでもあまり実感が伴わないのはひとえに爆が父親似であるからで、それから今まで叔父甥関係を意識しなかったからだ。
「おい、炎、まだ6時じゃないかッ!」
「早いに越したことはないだろう」
「くそジジィ」
例えばホラ、この叩かれた憎まれ口な裏返した愛情とか。
そりゃあ、俺だって人間ですから、爆のこんなあられもない姿を見れるのが自分だけだったら、嬉しくもなりますよ。
「爆殿!」
突然、無礼にもノックもせず、(俺の)爆の友人カイが入ってくる。新婚夫婦相手に何考えてんだ。一度激にも言っとかんとな。
「皆もう広場に集まってますよ!早くラジオ体操へ行きましょう!」
カイはそう言って(俺の)爆の腕をグイグイ引っ張る。
あからさまに嫌そうな(俺の)爆の表情も分からないで、(俺だけの)爆を連れていくな!
「炎殿、爆殿を少々お借りしますね、朝食までには返しますんで!」
カイは強引に事を押し進め、(俺だけの、嗚呼、俺だけのなんだ!)爆と出ていった。
「まだ時間はあるだろうが!」
「駄目です!始まるまで皆でドッヂボールするのが暗黙の了解です!終わったらドロケイですからね!」
もはや俺が在るのみとなった新婚住居に残された会話が、嗚呼、なんて虚しいんだ。
そりゃあ、俺だって人間ですから、爆位の年齢時の交友関係が如何に人生を左右するか位心得てますよ。
(でもな、元GSの俺だって人間なんだ!)
(爆を俺だけのモノにしておきたいんだ!)
(嫉妬だってしますよ、だって俺は人間だから!)
爆は鶏が十回鳴いても戻らなかった。俺は一人で声を聞いた。
(コケコッコー)
気が気じゃなくて、時計なんて見れなかった。
俺は他にすることも無いので、爆のパジャマを洗濯機にほおりこんで、スイッチを押した。
今時スイッチ一つで乾燥まで出来てしまうから、余計にやることがない。
俺は朝食の準備を始めた。
本当なら今日の担当は爆だったのだが、明日変わってもらうことにする。
別段俺が毎日作っても構わないのだが、爆はそれを不公平だと嫌っていた。
爆は朝のチャイムが鳴っても戻らなかった。俺は一人で音を聞いた。
(キーンコーンカーンコーン)
俺は段々不安になってきた。
爆だってGSなのだから、まず誘拐の線は無い。
それに、爆にかぎって浮気なんて絶対に無い。
つまり、不安になる要素など何処にもないのだ。
(それでも俺だって人間ですから、訳もなく不安になることもありますよ)
爆は、俺が家中の掃除を全て終えても帰って来なかった。
朝食に作った味噌汁はとっくに冷めている。
(そりゃあ、俺だって人間ですから、腹は減りますよ)
(でも、俺は爆の恋人なんですよ!多少腹が減ろうとも爆と一緒に朝食を採りたいから我慢しますよ!)
爆は俺が、調度干した洗濯物を取り込む時間になって帰ってきた。
「何処行ってたんだ」
「ヒゲんとこ」
返答にはまるで罪悪感など見えなかった。
らしいと言えばらしいが、しかし今俺が爆に望むのはそんなことじゃあないんだ。
「朝飯には帰るって言っただろ」
「カイのヤツが勝手に言ったんだ」
その通りだ、と思った。
同時に、やはり激には一度強めに言っとくべきだと思った。
「嘘は感心しないな」
「仕方ないだろ、夢中だったんだ」
また、その通りだ、と思った。
爆はまだリコーダーとかアマリリスなんかが似合う小学生だった。
・・・・わすれてたけどさ。
「遊び盛りってやつか」
「そういうことだ」
なるほど、爆は躊躇いもなく肯定した。
(そりゃあ、俺だって人間ですから、理論的な意見に反駁出来ない事もありますよ!)
(それでも、嗚呼それでも!)
(俺だって人間なんだ!理屈じゃないんだ!)
「爆!」
「な、なんだよ急にデカイ声出して…」
「遅くなるときはちゃんと言いなさい!心配するだろ!」
(それでもやっぱ、口から出るのは理屈だったりして)
(しかも、筋も通ってない最低の屁理屈だったりして)
(挙げ句、そんな事しか言えない自分に嫌気が射したりして)
(あーあ、最悪だ)
爆は決まり悪そうにうつむく。
「…悪かったな、次は必ずそうする」
(………)
(………………)
(………………………)
爆は部屋を後にした。
俺はまた一人になった。
けれど。
(たったそれだけの言葉に嬉しくなったりして)
(そりゃあ、俺だって人間ですから、嬉怒哀楽だって激しいですよ)
(そりゃあ、俺だって人間ですから、時には子供の様に単純ですよ)
「爆」
爆の部屋のドアをおざなり程度にノックする。
「夕飯は何が良い?」
「・・・冷めた味噌汁で良い」
END
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